家族の絆と再生を描く、人間ドラマとしての魅力!
自分には将棋しかない――。それゆえの孤独と葛藤
将棋の熱さと並んでこの作品の大きな魅力となっているのが、家族の絆を描くドラマです。
主人公・零は幼い頃に家族をなくし、引き取られたプロ棋士の家で将棋の楽しさを知るのですが、零に才能があり過ぎたため、引き取られた先の家族との関係は徐々に悪化してしき、家を飛び出してしまいます。
プロ棋士として上を目指す零ですが、心のどこかには常に家族へのうしろめたさや喪失感があり、「自分が将棋を指すことでみんなが不幸になるんじゃないか」という思いがあります。
そうした思いゆえに、自分には将棋しかないと思いつつも、将棋を指し続ける理由、戦い続ける理由に零は悩み、孤独な道を選んでしまうのです。
★「3月のライオン」2巻に掲載
孤独な零を救う、川本家3姉妹
そんな零を孤独から救うのが、物語の舞台・三月町で和菓子屋を営む川本家の人々。
★「3月のライオン」1巻に掲載
川本あかり(かわもと あかり)
川本家3姉妹の長女。祖父が営む和菓子屋・三日月堂を手伝いながら、夜はホステスのアルバイトもして、亡き母に代わって家族を支えている。(※コマ画像:右)
川本ひなた(かわもと ひなた)
川本家3姉妹の次女。物語開始時は中学2年生。零と最も年が近く元気で明るい女の子だが、あるとき学校でトラブルに巻き込まれ……。(※コマ画像:中)
川本モモ(かわもと もも)
川本家3姉妹の三女。保育園児。食べることが大好きな甘えん坊。零はもちろん、二海堂によくなついていて「ボドロ」と呼んでいる。ちなみに、ボドロとは名作アニメ映画に出て来た、森に住む知的生命体のこと。(※コマ画像:左)
川本家は数年前に母親が他界し、父親は過去に蒸発。今は祖父・相米二(そめじ)と一緒に暮らしています。
あかりがアルバイトしている銀座のお店で、先輩棋士たちに無理矢理飲まされた零を介抱したことから、3姉妹は零と知り合うことに。ご飯を用意してくれたり何かと気にかけてくれたりする川本家の人々にはじめは遠慮する零でしたが、その温かさにふれて心を開いていきます。
熱い将棋のシーンとは対照的に、川本家でのご飯のシーンはとてもほんわかとしていて、読んでいるだけでも幸せな気持ちになれますよ。そして、あかりさんの作るご飯がどれも美味しそう!
★「3月のライオン」10巻に掲載
零にとっての家族の再生、川本家にとっての家族の再生
川本家の人々によって救われ、零は徐々に周囲の人々と向き合っていきます。
しかし一方で、川本家も欠落を抱えています。亡くなった母親、出ていってしまった父親……。それに関わる秘密は、物語が進むにつれて明らかになっていきます。
また、次女・ひなたには学校で大きなトラブルも降りかかり……。
『3月のライオン』は、零が川本家に救われる物語である一方で、零の存在によって川本家が家族として再生していく物語でもあります。この部分についてはまだ語られていない部分もありますが、将棋の展開と並んで物語の主軸となっていると言えるでしょう。
★「3月のライオン」5巻に掲載