予期せぬ展開にページをめくる手が止まらない!
ありきたりな始まり方、定番の展開、納得の結末。そういった「安定性のあるBL」に物足りなさを感じている方は一体どれくらいいるのでしょうか。物語冒頭から、まさかの展開、ありえない終わり方.....。そういった一種のハラハラ感を味わうというのもコミックスの楽しみ方のひとつです。
たまには少し冒険をして刺激の強い展開の作品などいかがでしょう。今回はスタッ腐選りすぐりのコミックを8作品集めてみました。ぜひ「心して」お読み頂きますようお願い申し上げます!
編集者・人気作家・元作家が送る、生と死と愛の物語
追悼──死者の生前をしのび、その死を悲しむこと。お察しの通り、本作はひとりの若手作家の死を悼むストーリーです。
中心となるのは、若手作家・藤原、元カリスマ作家・薔田、編集者・宮本の三人。仕事への情熱をなくしかけている宮本が、担当作家宅でかつてのカリスマ作家に遭遇。執筆活動を再開してくれるよう熱心に口説き続ける中、担当作家が死亡し.....。三人が心の内で抱える想いを丁寧に描いたストーリーは「主要キャラの死」という悲しみを超えた「感動」を読者に与えます。言ってしまえば、本作は薔田×藤原カップルの恋を見守る宮本といった三角関係で成り立っているわけですが、その関係性は決してドロドロしたものではありません。薔田が語る藤原との思い出話は確かに愛と優しさで満ちていますし、藤原亡きあとの薔田と宮本の関係性も間違いなく愛でしかなく。生者と死者の優しく切ないラブストーリーをどうぞ。
弟子×華道家元!攻視点で語るダークでエロティックな日々…
続いてご紹介するのは、才能溢れる弟子×華道の家元が送る官能的で仄暗い物語。不慮の事故で急死した家元・朔の葬儀シーンに始まり、攻による回想という形でストーリーが展開します。冒頭で主役が死んでしまう、寧ろ始まる前から死んでいると言ってもいいかもしません。
故人・朔と弟子の明川の出会いを描いた矢先、朔の死因に疑念を抱く弓越(朔の愛人)が登場し、物語は一気にサスペンス色に! 明川が殺害したのではないかと疑いの目を向ける弓越に、明川が明かす真相とは.....!?注目すべき点は、やはりサスペンス小説を読んでいるかのようなハラハラ感を味わせるストーリー構成! 朔と明川のシーン(回想)の合間に明川と弓越のやりとり(現実)を挟むことで、よりドラマ性が強調されているように思えます。師匠と弟子、そして愛人。この三人が醸し出すダークでエロティックな空気感は他のどの作品でも味わえないものがありました。
ストレスフルなS×ミステリアス美人のガチすぎるバイオレンスラブ!
ハードSM好きの皆さん、お待たせしました!
色素が薄いミステリアスな美人受が隠れSのリーマンにバチボコに犯され殴られるコミックスのご紹介です!
社長子息の世話係としてストレスフルな生活を送っている巽と、妖艶なネイリストの三木。ひょんなことで出会ったふたりはお互いの合意のもと、ハードなSMプレイを楽しむ仲。縛るなんて序の口、バンバン顔を殴ります! 流血バッチこい! そんな日々の中で徐々に三木に対する執着心を見せ始める巽ですが、社長子息・涼馬にストーカーされて三木との関係がバレるわ、突然三木と連絡がつかなくなるわ.....。苦労性っぽいサラリーマンの巽がストレスの捌け口として加虐行為に走るのも納得(?)です。
ダークな三角関係と思いきや上下巻ともに非常にテンポが良い作品。徐々に三木という謎の男に心奪われていく巽の心理描写が絶妙です。だからこそ、最後の展開は「え、ええ~!?」と声をあげてしまうほど意外なもので。決してハッピーとは言いがたい終わり方ではありますが、一読の価値アリ! この機会にぜひいかがでしょうか。
泣ける心霊現象! バイの友人の最期の声とは…
ヤマシタトモコ先生の『タッチ・ミー・アゲイン』。人間味溢れるキャラクターたちと著者独特のセリフ回しを堪能できる作品です♪ 今回は、同作より「スターズ☆スピカ☆スペクトル」をピックアップしてご紹介したいと思います。
友人・尾坂が死んで数日。大学生の木路(きじ)の家には尾坂の幽霊が住み着いていた──。口を動かす以外まったく動く気配のない尾坂と(声も聞こえない)、徐々にこの状況に慣れてきた木路。特に仲が良かったというわけでもない彼らですが、実のところ一度だけ「そういう」行為に至ったことがありました。「度をこした悪ふざけだ」木路のモノローグにそうあるように、恋人同士のソレではなく.....。そのことを気にしていた木路が思わず発した、「怒ってるのか」というセリフ。この言葉に対する尾坂(霊)の反応こそコチラの作品の見どころであります!!
死者との意志疎通は当たり前ですが不可能です。けれど、もし死んだ人間の声が聞こえたら? 伝えられなかった想いはこの世界のどこへ行くのだろう。そんな哲学的なことをしんみりと考えずにはいられないお話です。
ホスト×死神!死ねない者同士の落語BL
巷では空前の落語ブームが到来していますね。
「貧乏神」「寿限無」といった落語のネタを題材にしたBL作品はいかがでしょうか?
とある男の家にとり憑いた貧乏神がワケあって死神に転生する話から物語は始まります。その死神が長い年月を経て、寿限無というこれまた200年ほど生きている男(現ホスト)に出会うという、非常にユニークな展開でストーリーは進みます。死ねない寿限無が死神に出会ったらどうなるのか。しかも現代人として普通に生活をしているときた! BLを抜きにしても興味深い内容ですが、そこにBL要素を加えて萌えどころ満載にしてしまうのが秀良子先生のスゴさ♪ 貧乏神時代に出会った男しかり、現世で出会った死ねないホストしかり、ダメな男に縁があり、しかも段々絆されてしまう黒髪美人の死神さんはある意味とっても健気で読者のハートをギュンギュンにキャッチしてきます! 頭頂部にちょこんと乗ったお団子もキュートでポイント高しっ!
果たして寿限無は死神との出会いで寿命を迎えてしまうのでしょうか。気になった方は今すぐ入手してみてくださいね!!
子爵×執事 絶対に触れ合わない甘美な愛の形
なんて歪な関係なんだ! そんな感想を抱かずにはいられないのが本作『グラン・ギニョール』。
こちらは冒頭から衝撃の展開続きになっております。
忍耐こそが愛の深さの証――。互いを想いつつも口づけすら交わさない関係を続ける須蛾とコンラート。禁欲的すぎるがゆえに、溢れる衝動は読者の予想をはるかに超える方へと向かいます。触れることができない代わりに、別の男に抱かれて乱れる恋人の姿を堪能するなんて、一体だれが予想できましょうか.....! 別の男を交えての行為、つまり3P描写もあるのですが、これまた官能的で! 3Pではあるものの、実際のところは須蛾とコンラートはお互いのことしか見えていない、完全にふたりだけの世界なのです。そんな彼らが辿る運命は.....どうぞ実際に皆さまの目でご確認を。
歪なように見えて純粋。まさにこの言葉に尽きる、耽美で美しい愛の物語。
遊郭に生きる少年の「愛に翻弄された」運命を描く
「イベリコ豚」シリーズなどコミカルな作風な人気のSHOOWA先生が送る、涙なみだの感動作『月影』をご存知でしょうか。表題作含め5篇を収録する本作ですが、表題作とラストに収録されている『逃げ水』が心臓を抉られるほど切なく悲しくて.....。遊郭で育った少年・清人の生涯をふたつの話を通して描いているのですが、端的に言えば彼は自分の意思とは裏腹に運命に翻弄され続けるワケです。好きな人と本当に結ばれることなく、けれど「先生」から言われた「何があっても死のうとするな!!」「わしの為にも生きてくれ」というセリフに支えられながら生きることをやめなかった清人.....。その生涯が果たして幸せだったのか、あるいは苦痛に満ちたものでしかなかったのかは是非読んでお確かめください。
読了後、物悲しさを覚えること必至ではありますが、「生きること」「愛すること」について深く考えさせられる作品であることも間違いありません。家族、恋人、友人。大切な人の思い浮かべながら読みたい作品でした。
禁断の一言では語り尽くせない!薫りに溺れた義兄弟の末路
まず最初に一言。とにかく暗くて重いです。
今回の特集の中で恐らく最もヘビーな内容となる作品であることは間違いありません。が、そういったものを乗り越えてぜひ読んでほしい作品でもあります。
なかなかここまで強く思う作品と出会えることも少ないのですが、つらくて苦しいのになぜか何度も読み返してしまう不思議な魅力があるのです。
義兄弟の禁断愛。血の繋がらない竹蔵と忍の歪な関係を紐解く鍵はタイトルにもなっている「薫り」です。憎悪の目を向けられているにも関わらず冷たい兄に欲情する弟。ある夜、彼は義姉の香水を身に纏い、正体を装って欲望のままに兄の体を貪りました。目隠しをしての行為は一夜限りのものではなく、それから何度も何度も繰り返されるのですが、どのシーンもまさにエロティックという言葉がふさわしいほど淫靡で美しい.....。また、義弟に抱かれ続ける兄の心理描写、禁断の関係が崩壊していく過程、そして最後に訪れる結末にはきっと誰もが涙するハズです。
むせ返るように漂う背徳の薫りをこの冬、ぜひ体感してみてください。
以上8作品を紹介してまいりましたが、いかがでしたか?
どれもなかなかに凝った設定・展開の作品となっていますので、上級者様にはもってこいだと思います。きっとそれぞれの作品ごとに抱く感想は違うかと思いますが、何かしら皆様の心に刺さるものがあれば幸いです。