「あっ、忘れてた!!」「あれ? そうだっけ?」日常生活の中で何度も聞くこれらのセリフ。人は忘れることを前提として生きていると言っても過言ではありません。しかし、予期せぬ事故などで本人の意志に関係なく記憶を失ってしまったら? 自分の歩んできた過去の全て、一定の期間のみの記憶、あるいは特定の人物に関する記憶だけ......。そういった記憶のない人物を目の前にした時、人はどう接するのでしょうか。
今回の特集で扱うテーマは「記憶喪失」。元々他人同士だった場合、カップルの片方が記憶を失った場合など様々なシチュエーション、テイストの作品を集めてみました。ハンカチ必須のストーリーをお楽しみください。
偏屈小説家が健気ノンケに心奪われて... 海辺で紡ぐラブドラマ
今回登場するカップルは、人間嫌いの小説家と海で拾った青年。裸で倒れていた青年を小説家の門倉が発見するという、おとぎ話のような出会い方をします。記憶を失った青年を一時的に預かることになった門倉は半分冗談で彼に愛人契約を持ちかけるのですが、なんとまぁそれを青年(漣)は承諾するんですよ! これがまたノンケのくせにエロエロでして。快楽に従順で回を重ねるたびにエロくなる上、目隠しプレイや玩具プレイなど大満足のエロシーンがたっぷり♡ 「せんせぇ...」と切なく喘ぐ姿も最高です。もちろん門倉が惹かれたのは体だけではありません。訳ありとはいえ、明るく無邪気に懐いてくる彼の存在は門倉の生活を間違いなく満ち足りたものへと変えていきます。が、そんな折で漣の秘密が発覚し......。近付いたかと思えば離れてしまうのが非常にもどかしかったです。
シリアス度の高い作品が多い中、そこまで重くなりすぎずに記憶喪失ネタを楽しめるので、今まであまりこういう設定を読んだことがないという方にもオススメできる一作でした。
パティシエ×小説家!魂レベルで恋をするロマンティックBL
ノンケの恋人の未来を思って、ゲイが身を引く──。このような展開が好きな腐女子の方に強く強くオススメしたいのがコチラです!
主人公は、別れ話の直後に階段から転落した閑(攻)。命に別状はなかったものの、恋人の幸彦に関する記憶だけすっぽりと失ってしまいます。「救急車を呼んでくれた人」としか認識されていない幸彦を思って開始早々すでに苦しくなります......。回復後もふたりの交流は続くのですが、もちろんその関係は恋人同士ではなくて。けれど、そんな日々を送る中で閑は少しずつ幸彦に惹かれていくんですよッ! 幸彦宅にある「恋人の気配」に嫉妬する様子がたまらなく愛しい......。それ全部アナタですよと言いたくなります(笑) つまるところ一度好きになった相手にもう一度恋をする展開なのですが、そう簡単にくっつかないところが本作の魅力。閑の好意を拒む幸彦の切ない表情に注目してみてくださいね!
相手の幸せを願っての行動。けれどそれが本当に幸せかどうかは結局のところ分からない。そんな当たり前のことを痛感するストーリーでした。
これぞ男の世界!敬語メガネ×記憶喪失青年の任侠ラブ
山中ヒコ先生の絵柄でヤクザって一体どんな感じなんだろう。純粋にワクワクしながら読み進めれば、眼前に広がるのは謀略や執着が入り混じるオトコの世界!! エッチやラブ要素は少ないのですが、限りなくラブに近いオトコ同士の絆をがっつり楽しめる作品となっております。
組の抗争に巻き込まれ、生き埋めにされてしまった主人公の始。ギリギリのところで救出されるも、記憶を失った状態で目を覚まします。助けてくれた謎の男・原田に匿われる形で始まるふたりの同居生活は、当初ライトな雰囲気で展開していきます。が、原田にまつわる秘密や抗争の実態が明らかになるにつれて話は一気にシリアスムードに!? 基本的にクズ人間な原田が始に優しくする理由や抗争の真相など、核心に触れる回想シーンは任侠映画さながらの緊迫感に溢れています。現役バリバリ時代の始の男前っぷりにノックアウトされつつ、原田の執着心に身悶えつつ......。舎弟・スカイくんの可愛さに救われました。
タイトルにもなっている“gives”という言葉が何を意味するのか。ぜひ結末を見届けた上でその意味を調べてみることをオススメします。
ワケあり青年×ゲイコック!温かくも切ない異国の同居ラブ
おいしそうなご飯が出てくると聞いて読んでみたら、ストーリー構成があまりに巧みすぎて心を鷲掴みにされた作品がコチラ!
コックでゲイのアヤと、突然彼の前に現れた記憶障害の青年。自分の名前すら思い出せない青年を成り行きで世話することになったアヤですが、実は恋人を失ったばかり。何の前触れもなく姿を消した恋人の代わりにやってきた青年(リネアと命名)はあまりに美しくて無邪気で。リネアと過ごす日々に充足感を覚えると同時に、愛した恋人を忘れてしまうかもしれないという現実に揺れ動くアヤの姿が印象的でした。何の変哲もない三十路の男が愛に振り回され、捕らわれる様子がとってもリアル。一方、無邪気で子どものような言動で周囲を虜にするリネア、実はダークな過去持ちです。リネアがアヤの前に現れた理由、アヤの恋人が姿を消した理由。単なる点でしかなかったそれらが最後の最後で一本の線として繋がった時の衝撃は言葉にできません!!
ふわふわタッチの絵柄からは想像できない驚愕の真実、そして各所に散りばめられた伏線......。糸井のぞ先生流の記憶喪失BLをとくとお楽しみください!
淫乱男に精を吸い取られ... 和を堪能できるミステリアス人外作!
大正レトロ、人外、怪異、そして記憶喪失! 怪談や仄暗系の民俗話を読んでいる時のようなゾクゾク感と濃密エロスのコラボが斬新な幻想ミステリーはいかが?
本作の中心キャラは、よろず屋の主人・月森(受)と記憶喪失の警官・巌(攻)、そして月森の助手で巌の従弟である未散の三人。彼らを試すかのように次々と起こる怪奇事件は、まるでミステリー小説を読んでいるかのように本格的! かと思えば、「精気を供給するため」と巌を誘う月森の色香にクラクラしたり......。人外と言えば触手プレイが定番ですが、受の体内が触手仕様になっていて攻のおち○ぽを包み込む描写に感動しました!! ほかにも鱗剥がしプレイ(?)や攻め喘ぎなど見どころたっぷりですよ♡ そして忘れてはならない存在が従兄弟の未散。幼少期から密かに巌に想いを寄せていた彼の切実な願いに、スタッ腐は心臓が苦しくなりました。三角関係と呼ぶにはあまりに純粋で美しい......。記憶喪失要素が少ないようにみえますが、最後に驚きの結末が待っていますのでご安心を。上下巻というボリュームを忘れて没頭してしまうこと請け合いです♪
ホラー?サスペンス?いいえ、これは珠玉のラブストーリー
目覚めたら記憶を失っていた男と、その傍らで手を握る見知らぬ男。どうやらふたりは恋人らしい。ミステリー小説の書き出しかのような描写で幕を開ける本作。序盤から漂う不穏な空気にソワソワしつつ、読んでみると......とし視点で描かれる恋人・まちがとにかく健気で可愛い! 自分のことを忘れていても最初からまた恋をしたいと語る姿に、としがキュンとくるのも頷けます。記憶がないながらに一生懸命に彼を愛そうとするとしですが、まちのふとした言葉に疑問を覚えることも。愛おしいと思うのにどうしてかザワザワする......これが記憶喪失BLの醍醐味か~! そんなふたりの過去に迫るクライマックス......背筋がゾッとすること必至です。とはいえ、根底にあるのは「愛」なんですよ。焦燥感に駆られるとしを献身的に支えるまちの「愛」、そんな彼に応えようとするとしの「愛」。他人から見れば歪かもしれませんが、これはふたりが紡ぐ最高のラブストーリーなのです。
最後までどう転ぶか予測不可能! そんなミステリアスなラブストーリーもたまにはいかがでしょうか。
号泣待ったなし!ハイパー健気受に心が震える感動大作
続いてのご紹介は、バスタオル必須の感動作。あまりに苦しくて号泣、そして感動しすぎて号泣と、とにかくスタッ腐は終始泣きっぱなしでした。
事故で2年間の記憶を失った恋人・藤井を「友達として」支える古藤の健気さが非常に印象的でした。普通なら「俺たち付き合ってたんだぜ」となるところですが、「忘れた2年間に関してネタバレしないで欲しい」という藤井の願いを古藤は忠実に守って......ウッ(泣) にも関わらず、うっかり「好き」という感情が表情や言動に現れてしまった時なんかもうっ......!! そんな彼に対して、じわじわと妙な気持ちを覚えていく藤井の動揺もお見逃しなく。「恋人がいたとしても自発的に好きになりたい」そんな藤井が少しずつ「友達の」古藤に傾いていく様子はじれったいからこそドラマティックでした。もちろん、阿仁谷先生ならではのドロドロセックスも必見! ハメ撮り映像を見ながらのオ●ニー、足コキなど各種フェチさんもご満足頂けるハズ♡
恋人同士だったふたりがセフレになって、また恋をする。どうぞ「なんどでも」読み返してみてくださいね。
三者三様の「幸せの結末」がツラすぎる... 生と死と愛の物語
BLというジャンルでのみ語られるのは正直もったいない。まず最初にそう思いました。ラブや胸キュンといった萌え要素を超越した人間同士の繋がり......。読後はまさに抜け殻状態でした。
「天国」と呼ばれる無法地帯を舞台に、美しい殺し屋の世都(セツ)、記憶のない少年・礼夏(リーシア)、世都の過去を知るロマネが送るアングラなストーリーは、読み手を一気にその世界へと引き込みます。体中に傷があるのは? なぜハサミを怖がるの? ロマネとはどういう関係? 礼夏の名前の由来は? などなど、とにかく世都に関する謎が多すぎるのですが、後半に訪れる怒濤の回収作業が本当に重くて重くて......。赦されたい、救いたい、愛されたい、守りたい。各キャラのそんな感情がページをめくるたびに伝わってくる作品でした。そして読み終わったら今一度表紙のご確認を。『みずのいろ。』というタイトル、「血の涙」を流す世都、そして帯の「僕を愛して」。読む前には理解できなかったこれらの意味がきっと分かるはずです。
読み手を選ぶ結末ではありますが、三人が幸せだったらいいなぁとスタッ腐は切に願います。
かなりヘビーな作品を後半に持ってきてしまいましたが、いかがでしたか。記憶をなくしたのが受なのか攻なのか、元々の関係がどうだったのか。また、失った記憶の程度によって展開が全く異なったものになりましたね。スタッ腐も記憶喪失BLにテーマを絞って作品を読んだことはなかったので非常に新鮮でした!今回ご紹介した作品で気になるものがあれば、ぜひこの機会にお試しくださいませ。