心の傷に囚われ続ける男たち。
「人は傷つけ傷つけられながら生きている」どこかでそのような話を聞きました。どんな人でも少なからず心に傷を負うもの。その回復が早いか遅いかで、その後の人生はきっと大きく変わってくるのでしょう。傷の治りが遅い、あるいはほとんど治らず痕になってしまう──。この深い傷痕を一般的にトラウマと呼び、BL内でもその痛みに苦悶するキャラクターが多数登場します。
重い特集となることは重々承知の上で、今回は「トラウマ持ち」にスポットを当てて作品を選定してみました。どんな傷なのか、その傷を癒やす存在は現れるのか……。キャラクターの境遇や心情に注目して読んで頂ければと思います。
誰も失いたくない。生きていることを確かめたいから、生きている実感がほしい……。死は誰にでも訪れるものですが、大切な人との別れはできるだけ先がいい。誰しもが思うことで、もちろん受けの那月も同じです。しかし非情な運命は那月を襲い、不慮の事故で父親を亡くしてしまいます。これ以降那月は大切な人の死を過敏に恐れるようになりました。「ずっと片想いをしてきた幼馴染の由仁が、死んでしまったら……」と。
本作の見どころは、そんな凍えきった那月の心を時間をかけて何度も温めていく由仁と、それによりいつか迎える"死"よりもふたりの明るい未来を目指そうと変わる那月の姿です!パニックを起こす那月を、言葉で行動で、時には体温でなだめる由仁のスパダリ度たるや……!前半はシリアスなシーンが多めですが、後半はコメディタッチで描かれる場面も多く、"死"という重いテーマを扱う物語ながらとても読みやすい作品です。ぐっとくるシーンもありますので、ハンカチをご用意してお読みくださいね……!
匂いの記憶……って、とても心に深く刻まれると言いますよね。主人公の七々瀬は、過去のトラウマから人の匂い──特に男の匂いがダメになってしまったゲイの青年。日常生活はもちろん、セックスをするときにもマスクを手放せないのでセフレにも呆れられてしまいます。ある日、人肌恋しくなった七々瀬は街角でぶつかった長身の男前・桂に声をかけ欲求不満を解消しようとしますが……。スマートで余裕たっぷりの大人な桂に「怖くないから」と耳元でささやかれながら優しく抱きしめられる七々瀬に思わず合掌(号泣)。後ろからマスクに手をかけるシーンではエロ要素がないはずなのに……色気がだだ漏れでうっとりとしてしまいます。ミギノヤギ先生こだわりのマスク着用セックスは必見です!!一枚隔てた奥に隠されたその唇を暴きたい!頑なにマスクを取ろうとしない七々瀬の気持ちと体質が変わる時は来るのか……。
トラウマにもセラピーにもなり得る"薫り"がカギとなる本作、匂い立つような作品の美しさにぜひ溺れてほしいです!!
夜な夜な繰り返してきた男漁りを見知らぬ男に邪魔され、セックスの機会を逃してしまったゲイの佐倉。後日その「見知らぬ男」が実は会社の同僚・長谷川だと知り、しかも一緒に住まないかと持ち掛けられて……!?
愛していた彼氏に「結婚するから」と別れを切り出されてから、カラダだけの関係でいいと割り切るようになったビッチな佐倉が、まっすぐな寡黙攻め・長谷川にゆっくりと絆され行く姿が尊いです……。体が満たされていればそれで十分。そう思っているはずの佐倉の寂しそうな背中を見つめる長谷川の視線……たまりません!セックスがなくてもふたりで過ごす時間の楽しさに気づき、「本当はそういう時間を求めていたんだ」とわかるまでの感情の動きが丁寧に描かれていて、読み応えも十分!気持ちが通じ合った愛あるセックスを覚えてからのとろっとろにとろける佐倉も最高にえっちだ……!トラウマが溶けて幸せを掴むまでの時間、そしてラブラブなふたりもゆっくりと楽しめる作品です♡
「欲しいものは欲しいだけ全部あげる」という、無償の愛を捧げる攻め・八尋。そして過去に実親から育児放棄され、養子として引き取られて育った受け・累。累は養父たちにまっすぐな愛情を与えられて育ちますが、過去のトラウマからか「養父たちに必要とされたい」「完璧な息子でありたい」と強く望み、進んで優等生であろうとします。累の過去が可哀想で側にいる八尋、そして八尋の優しさで満たされる累は、依存関係のような状態に。この不均衡な依存関係がたまらなく良いのです……!学校では遊び人と優等生で関わりを持たないふたり。放課後は精神が不安定になる累の気持ちを埋めるように共に過ごし……。八尋から離れようとしても離れられない累、嫌だと言われても助けようとする八尋。ふたりが幸せを探し、苦悩する姿は非常に推せます。精神が壊れていく累は痛々しくもどこか魔性で、儚げで……。
普段、「周りに迷惑をかけたくない」と考えすぎてしまう方にも、そっと寄り添うような優しい一冊です。
義父の命令で性接待をさせられる息子……ヘビーすぎる設定に冒頭から度肝を抜かれます。しかもその義父の病み具合がエグすぎる……。逃げられた妻の代わりに雪刀を抱くわ、自身の名誉のために息子を売るわ……。けれど、どんなに異常な関係だろうと雪刀にとって父の存在は尊敬に値する作家で。義理とはいえ親子だからこその葛藤が垣間見えました。タクシードライバーの後藤はそんな雪刀を初めてひとりの人間として扱ってくれた大人でした。その境遇を憐れむわけでもなく、作家の息子だと特別扱いすることもない。後藤の存在は、心身ともに義父に囚われ続けた雪刀にとっての「光」でした。ですが、その「光」も実は暗い暗い過去を持ち合わせていて……。ふたりが初めてしたセックスは、お互いの傷や罪悪感を浄化するための行為に思えました。
BLでありながら名声、執着、罪悪感など「人間の心理」にスポットを当てた本作。「喪服」という言葉は何を意味するのか。雪刀、後藤、義父のそれぞれに当てはめて考えてみてはどうでしょうか。
これは命乞いか、愛なのか……短編小説のモノローグから始まる、本格サスペンスBLシリーズ!
殺人犯×精神分析医のBLでありながら、冒頭から多くの謎に包まれており、ストーリーが進むごとに1枚ずつベールがはがれていきます。「氷の女王」というあだ名をもつクールビューティーな精神分析医・浅野克哉は、凶悪的な連続殺人事件の解決のため、捜査に協力することに。セキュリティーに守られた一軒家の密室で出会ったのは、不敵な笑みを浮かべる殺人犯・篠原。篠原は過去に愛した男がおり、会話をするなかで明らかになる彼の屈折したロマンスに、背中がゾクッときました。しかし、捜査が進むうちに、浅野は悪夢や記憶の不一致に悩まされていき……?ひたすら謎と陰鬱さが滲む作品となっております!
本作の魅力のひとつである、圧倒的画力。そして、ダーク系が性癖に刺さる読者にはたまらない、洋画のような雰囲気。これだけでも一読の価値があります!!狂気、血痕、鬼畜……これらのキーワードにビビッときた方には、楽しんで頂けること間違いなしですよ!
幼いころに義父に襲われて以来家庭にも居場所がなく、学校もサボりがちな成瀬。クラスメイトの晴海はそんな成瀬を気に掛け、何かと世話を焼いてくれるのですが、その優しさを「自分とセックスしたいからだ」としか受け取ることのできない成瀬の心の傷にぎゅっと胸が痛みます。そして、「セックスしたいから相手を好きだというフリをしている」のではなく「好きだからセックスしたい」という逆さまの価値観に辿り着いた際の照れる成瀬がとにかくかわいい……!
一方、口数が少なく硬派な晴海も、成瀬とはまた違った方向で不器用なところが愛おしい堅物男子。言葉足らずではありますが、ひたむきに成瀬を思う懐が深いオトコです。何を考えているのかよく分からない晴海に振り回されつつも「人を好きになるということ」に向き合う成瀬をずっと見守っていたくなります……♡
ほんのりビターな後味の本編とハッピーな描きおろしが両方楽しめる、まさに「一粒で二度おいしい」作品です♪
大学生の夏樹と後輩のコマノは恋人同士。幼い頃からゲイを自覚してきた夏樹は、ホモだのオカマだのと揶揄されてきた過去をもっています。サラッとした筆致で拭えないトラウマを表現してしまう秀先生の凄さよ……!一方攻めのコマノ(ノンケ)、一見するとデリカシーのない発言が目立ちますが、本当はとっても優しいイイ男。そんなコマノの積極的な態度を嬉しく思うし甘えたいとも思う。けれど、どんなに幸せな気持ちになろうとも、夏樹はいつだって「終わり」を意識しています。「好きだ」と「本気になっちゃいけない」の狭間でもがく夏樹の葛藤が、「自分が幸せになれると思えない」「好きで好きで世界を憎んでしまいそうになる」といったモノローグから伝わってきて、心臓が破裂しそうなくらい痛かったです……。
ふたりの馴れ初めを描く前作『リンゴに蜂蜜』とどちらを紹介するか悩んだ末、夏樹の葛藤がより強調されたこちらの『彼のバラ色の人生』を敢えて選んでみました。前作未読でもバッチリ楽しめますのでぜひお手に取ってみてください!
いかがでしたか?やはり全体的にシリアス度が高めでしたが、ほとんどの作品はハッピーエンド。苦しい葛藤のなかで救いとなる相手と出会い、最終的にはきちんと傷が癒えてゆく……そんな作品が多かったと思います。
読んでいる最中はひたすらつらい、けれどもそのつらさがあるからこそ、ラストの感動もひとしお。どん底からのハッピーエンドがお好きな方にオススメしたい特集でした!
\スタッ腐★イチ推し特集/