呪い2:安定した仕事につけば幸せ
「公務員になれば幸せ」「派遣は不安定だから」「大企業に入ればずっと安心」……そうやって自分を苦しめたり相手に求めたりしてはいませんか?
主人公のみくりは大学院まで出たにも関わらず、うまく就職することができず派遣に、そんな派遣業も切られて平匡さんの家事手伝いとして働くことに。古くからの友人には、「大学院まで出たのにねえ」と言われてしまう始末。まあ、確かにそう思いますよね、不安定な仕事だなあって。
でも、この作品を通して、みくりはどんどん出世していくんです。平匡さんの家事手伝いでは最終的に雇い主と従業員という関係ではなく、最高経営責任者(CEO)まで登りつめます。友人の商店街を手伝っているうちに、自分がコンサル的な仕事に向いていることに気づき就職活動をし、とうとう仕事を手に入れることができます。はたから見たら、正社員の経験もなく、派遣も切られて、社会的に再起不可能のような印象をもたれるかもしれませんね。でも、みくりは常に目の前にあることに全力でぶつかっていき、結果的に「本当に自分がしたかったこと」を見つけることができます。
大学在学中に就職活動が始まる現代日本において、こういった卒業してから定職につかず迷っているみくりは不安定に映るかもしれません。そして決して大企業に入ったわけでもありません。でも、やりがいのある仕事を自分で見つけて、それに向かって進んで行く人生は充実しているし、そのために必要な時間って人それぞれですよね。
別に、在学中に内定をとるという選択肢を否定しているわけではありません。そうではなくて、「別の選択肢もあるんだよ」というのを登場人物が身をもって伝えてくれているのがこの作品の素晴らしいところ。そう、焦らなくても大丈夫。自分に合う仕事が見つかるまで、右往左往したりジタバタしたり考えてみるのもいいじゃない、なんて自然と思えるようになりますよ。
呪い3:女性は老いたら価値がない?
★「逃げるは恥だが役に立つ」9巻に掲載
「アンチエイジング」や「美魔女」なんて言葉が流行っちゃう日本、男性から心無い一言を言われてうんざりしている女性も多いのでは? 私もしょっちゅうメディアで「若々しさを保つために」みたいな売り文句を見ては、ケッとなりますよ。余計なお世話〜!!ただ、そうやってキリキリしちゃう時点で気にしている証拠なんですよね……。この作品はそんな女性の“年齢”という呪いも解いてくれるんです。
みくりの伯母の百合ちゃんは、55歳にして独身、おまけに処女。
はい、上の設定を見ただけで優越感を感じた若い女性は手をあげてほしい。少なくとも、私は少し思っちゃいましたよ。百合ちゃんは美人です。色気もある。でも、55歳というだけで、可愛くない自分でも若さで勝機があるかもって思えちゃう。これが女性の年齢による呪いです。
百合ちゃん自身も、自分の年齢を気にしていないようにみえて、実はとっても気にしているんですよね。55歳の自分に28歳の男性が欲情するなんてありえないと、自分に想いを寄せてきた28歳の風見さんを振っちゃうし。その後にもったいなかったかなって後悔する百合ちゃんがまた正直で可愛いんですけども。
もちろん、若い女性には若い女性なりの魅力というのがあります。誰だってシワだらけの肌よりは、ハリとツヤのある若々しい肌がほしいもの。でも、だからって「女性は年齢を重ねるにつれて魅力が失われていく」と思ってしまうのは、自分で自分の首をしめていることなのかも。
「自分で自分に呪いをかけているようなものよ。あなたが価値がないと思っているのはこの先自分が向かっていく未来よ。それって絶望しかないんじゃない?」
★「逃げるは恥だが役に立つ」9巻に掲載
「やっぱり若さというのは価値の一つだと思うんです」という女性に対して、百合ちゃんはこう言い放ちます。これって、百合ちゃんもずっと年齢にこだわっていたから、言っている本人も後からびっくりしてしまうんですよね。でも、彼女自身、この発言が自分から出てきたことで、憑き物が落ちたような気分になるんです。そして、自分の気持ちに素直になり、風見さんの告白を受け入れます。
そう、生きるというのは、日々老いていくということでもあります。年齢からは絶対に逃げられない。逃げられない加齢に対して、自分から「価値がない」という固定概念をもっていれば、いずれ自分がその立場になっちゃうわけです。自分で自分に呪いをかけるとは、そういうことですね。
よく考えれば、「自分を綺麗に保つこと」と「若いから価値がある」って、全然違いますよね。歳を重ねるがゆえの魅力というのもあるし、魅力が増してくような大人になればいいわけです。必死に若さをキープするのが苦しい女性は、ぜひ「魅力的に歳を重ねていく女性」という選択肢も考えてみてはいかがでしょうか。
うーん、それにしても、百合ちゃん格好いい。風見さんが惚れるのもわかります。